2017/07/13

言葉の力が記された本「天風先生座談」 ペンは剣よりもメスよりも強し







いろは歌


ancoさんによるイラストACからのイラスト





私たちは信じている。言葉のチカラを


引用 朝日新聞社 会社案内 ジャーナリスト宣言


このキャッチフレーズは、朝日新聞がコマーシャルで使用したものですが、言葉や言論は、ペンは剣よりも強し」であり、ときに物理作用をも引き起こす破壊力を秘めた道具になります。





よって、言葉とは間違った方向ではなく正しく使うべきものです。

ドイツの哲学者であるイマヌエル・カントは、若い頃医師に言われた一言によって、自らの運命を変えることとなりました。

カントは産まれつき虚弱体質で、喘息も患っており、毎日のた打ち廻りながら苦しんで生きていました。

そんな17歳のとき、カントの住む田舎町に医者がやって来ました。

カントの父親は、医師が診てもどうにもならないと思いましたが、せっかく街に来ているのだから、駄目で元々で診断して貰うもらおうと考えました。

しばらくして医師の前に引き出されたカント少年は、一通りの診察が終わり、どんな言葉を掛けられるのか耳をすまして待っていました。

そこで、医師は次のような言葉をかけました。


気の毒だな、あなたは。しかし、気の毒だな、と言うのは、体を見ただけのことだよ。よく考えてごらん。体はなるほど気の毒だが、苦しかろう、辛かろう、それは医者が見てもわかる。けれども、あなたは、心はどうでもないだろう。




私はこの文を読んだとき、中村天風氏のように泣きはしませんでしたが、人生に悩んでいる頃だったためか衝撃を受けました。

そして、この医師の言葉は一見すると、身体と心は別とするデカルト以後の西洋を規定した、物心二元論に基づくと捉えることができますが、もう一方で、後にカントが体の病を治したように、健康で積極的な心が体を同化してしまう、心と体は同じとする一元論として捉えることもできます。

精神的なストレスが、頭痛や円形脱毛を引き起こすことがあるように、当然この逆の作用である、健康な精神が病を治すことは大いにありえ、笑いによって免疫力が増すことも知られています。

しかし現代の西洋医学では、このような精神による自然治癒力は軽視され、というよりも教えていないようです。

決して身体と心は切り離せず、むしろ一体であり、天風氏自身も、当時不治の病であった肺結核を積極的な心で完治させ、後に心身統一法を打ち立てました。

一元論は、バラモン教やヒンドゥー教の梵我一如、道教の道、仏教の真如にみられ、東洋思想の根幹を成すものと考えられ、私も自身の体験から一元論を信奉していますが、ヨーロッパの科学技術が発展した理由として、二元論による対象の徹底的な客体化にあったことは否定できず、分析することに関しては二元論は大変有効です。

ただ天風氏によると、聖書やコーランにも心と体を別に考えてはならないとの記述があるそうで、一般的に、神と人間を峻別し、善と悪などすべてを対立軸で捉えるとされるキリストやイスラム世界でも、厳格な二元論を用いていないことが分かります。

すると、このカントの話が記載された天風氏の書籍は、


  • 大袈裟に言えば人類の叡知の一端が垣間見られ、

  • また、松下幸之助ら当時の政財界の人間を心酔させた中村天風のエッセンスが凝縮されており、

  • さらにカントを診察した医師の言葉はもう少し長いので、


是非とも本書を手に取って確認してほしいと思います。

他にも天風氏に関する書籍はいくつもありますが、氏の本質を理解できず、意味不明な精神論と誤解してしまう恐れの本もあるので、中村天風を知るならこの一冊から始めるといいと思います。

この「天風先生座談 宇野千代 廣済堂文庫」は、死ぬまでに読むべき一冊であることは間違いありません。

文末にリンクを張っておきます。

このように、カントは医師から投げ掛けられた言葉によって心の奥深さに興味を持ち、心によって身体の病を克服し、心の働きを探究する哲学の道へ進みました。

カントが実践理性批判に記した有名な言葉があります。


賞賛と畏敬の念で心を満たすものが二つある。それは、我が上なる星空と、我が内なる道徳律。


この言葉も含め、私の推測でしかありませんが、カントは宇宙と己が一体になる、東洋哲学における一元論的な宗教体験をしたのではないかと思います。

そしてそれは、若者の時代に医師から掛けられた二元論的な言葉から思索を深め、たどり着いた境地なのだと、前半生を悩み抜いた私自身の体験からもそう思えるのです。


言葉には力がある


これは紛れもない事実であり、言葉の集積によって成り立つ小説も決して空想世界だけに留まるものではなく、人々の心に作用し、現実世界を変えられるものだと私は信じています。

私が小説を書く理由も、皆さんに座右の銘を紹介する理由もそこにあります。


言葉のチカラを信じている


ペンは剣よりもメスよりもときに強く、また人を支配するほどの威力を持つ言葉を、私は創造欲のためだけではなく、自らを鼓舞するため、人々の魂を震わせるため、社会への提言のために使用していきたいと考えています。

最後にまとめますと、言葉の力を重視する中村天風氏の書籍の中で、病弱な少年であったカントを哲学者に変えた、言葉の大いなる力が具体的に記された本書は、是非とも読むべき一冊だと思います。









引用参考文献

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