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2017/06/06

モダンなデザインへの挑戦として座れない椅子を作成した岡本太郎 「坐ることを拒否する椅子」









芸術家・岡本太郎氏の代表作といえば、大阪万博で異彩を放った巨大な建造物・「太陽の塔」が上がると思いますが、彼を理解するうえで最も適した作品は、


「坐ることを拒否する椅子」


だと断言します。





太郎氏は、「自分の職業は人間だ」と公言していたように、画家としてだけではなく幅広い分野で活躍し、様々な作品を遺しています。

絵画として有名な作品には、「痛ましき腕」「重工業」「森の掟」などがあり、京王井の頭線・渋谷駅の改札前に展示されている大作・「明日の神話」も有名です。

私の一押しの作品である「坐ることを拒否する椅子」は、川崎市岡本太郎美術館や、川崎市市民ミュージアムや、港区南青山の岡本太郎記念館など、様々な場所で実際に座ることができます。

では、なぜ「坐ることを拒否する椅子」が、太郎氏の理解に最も適しているかを説明します。

太郎氏は、何に対しても屈服せず、闘うことを身上に生きてきました。



幼年期はガキ大将に楯突き

小学生のときは学校に反発して何度も転校を繰り返し

戦争中は、殺される覚悟で上官に「日本は戦争に勝てない」と言い放ち

戦後は、画壇の老大家や雪舟を芸術ではないと攻撃し

描いた絵は売らない、つまり鑑賞者の目に屈せず、大衆にも媚びず

諏訪の御柱祭でも、大木が急斜面を滑り降りる危険な木落しで死んでも構わないと御柱に乗ろうとし



このように、人・権力・権威・大衆・お金・さらに死の恐怖にさえも屈せずに闘い抜きました。

そして、発した言葉が自らに跳ね返ってくることを承知で、


「私はピカソを超えている」


と公言し、多くの批判にも屈しませんでした。

そのように安住を拒絶し、常に緊張感の中で自らを奮い起たせる生き方は危険極まりないですが、危険を感じるからこそ燃え上がるのだと説き、瞬間、瞬間を情熱的に生きた熱い魂は、今なお多くの人を魅了し続けています。

そんな太郎氏が制作した「坐ることを拒否する椅子」は、当然のように座るためにある椅子が座ることを拒否をするのですから、随分な傾奇者(かぶきもの)です。

本人は、モダニズム(近代主義)やモダン・デザインへの挑戦だと語っていますが、こんなところまで自らを貫く太郎氏の心意気を感じ取れます。

私がこの椅子と対面した場所は、太郎氏が住居兼アトリエとしていた青山の岡本太郎記念館でした。

まず坐る前にじっくり観察すると、腰を下ろす箇所は丸みを帯びており、顔のようなものが描かれています。


本人が顔だと言っているので、顔にしておきましょう。

数種類ある椅子に刻まれた顔は、ちぐはぐで大きな目を見開いていたり、一つ目であったり、ギザギザの大きなキバを剥き出していたり、笑っていたり、しかめっ面だったり、顔が切り裂かれていたりと、TARO氏お馴染みの躍動感が溢れ、表情がうごめいています。

そして、その目や口は彫刻が施されて凹凸になっており、腰を掛けるのに一瞬躊躇います。

意志を持った椅子として、座ろうとする者に対決を迫ります。

よし、じゃあ座ってやるぞ、と心して腰を降ろすと、予想通り変な感触があり、さらに丸みで座りにくいものの、まあ座れないこともないかな、てな具合です。

本人の話によると、山登りで切り株や石に座るときのように、ゴツゴツして抵抗を感じさせるものを想定したとのことです。

どんなときでも安逸に流れることのなかった太郎氏の精神そのものが、この椅子には現れています。


そしてこの椅子を、あの三島由紀夫が大層欲しがったという逸話があります。

裸の男・岡本太郎とは対照的に、作品や自身を飾り立てた三島の美意識からすると、らしくなく、この挑発的な椅子が、庭にアポロ像が置かれた白亜の三島邸に似合うとは思えませんが、人間は自分でも理解できない側面を持っており、またもしかしたら、何らかの強い理由が三島にあったのかもしれません。


少し話が逸れますが、あの有名な「太陽の塔」は、著名な宗教学者であるミルチャ・エリアーデの著作に記された「シャーマンの木」からインスパイアされたと言われています。

もし、ある人物を理解しようとするならば、その人物が創り上げた作品に接することもさることながら、その人物が影響を受けたものを調べることも、有効であることは疑う余地もありません。

どんな偉大な芸術家も、無から有は決して生み出せませんので、創造の土台となる知識や体験が必要です。


太郎氏にとって、エリアーデもその1つでしょう。


しかし、太郎氏が受けた影響についてエリアーデを殊更強調するような捉え方は、太郎氏を矮小化することになりかねません。

本人が語っているように、多種多様の絵画、哲学、民族学、スタンダールやドストエフスキーの小説、ルソーの随筆、コントル・アタックの盟友バタイユ、夜の会の花田清輝氏など、様々なものに影響を受けています。


いみじくもピカソが語ったように、


芸術家はあらゆるところから来るエモーションの集合場所である。空から、大地から、一片の紙から、過ぎ去る一つの形象、蜘蛛の巣から


引用文献 青春ピカソ 岡本太郎 新潮文庫


であり、人間・岡本太郎を創り上げたものは、まさしく森羅万象であり、生み出した作品もまた様々なのです。

そしてそのすべての作品の中に、何者にも屈しない精神が貫かれており、その代表が、


坐ることを拒否する椅子


であると私は思うのです。

もし岡本太郎の精神に触れたければ、数あるギリギリと攻めてくる文章もさることながら、この何種類もある「坐ることを拒否する椅子」と対決し、実際に座ってみることをお薦めします。









引用参考文献



岡本太郎記念館
〒107-0062 東京都港区南青山6-1-19 
TEL:03-3406-0801 FAX:03-3409-5404







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