2017/03/15

おすすめできないアル・パチーノ主演のギャング映画「スカーフェイス(SCARFACE)」 主人公トニー・モンタナに見る稚気とタナトス  





ニーチェの横顔写真

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ


Wikimedia Commons パブリックドメイン



真の男のなかには、ひとりの子供が隠れている。この子供が遊びたがるのだ。

In every real man a child is hidden that wants to play. 

Im echten Manne ist ein Kind versteckt; das will spielen. 


これは、ドイツの哲学者であるニーチェが残した言葉ですが、まさに、ギャング映画の最高峰と評される「スカーフェイス」の主人公・トニー・モンタナのためにあるような言葉です。






(ネタバレあります)

本作は、キューバで反カストロ主義者として追放され、船でフロリダのマイアミにやってきたアル・パチーノ演じるトニー・モンタナが、己の度胸と才覚を頼りにマフィアとして成り上がり、最期は破滅するという単純なピカレスクものですが、侮るなかれ、ここには、金、女、権力、薬物といった飽くなき欲への渇望を超えた、真の男の中に棲む稚気を、アルパチーノが見事に演じきっています。

男の子は、ウルトラマンや仮面ライダーなどのヒーローものを観れば、目を輝かせて主人公を気取り、本気で世界を救えると無邪気に思っているように、母親を含めた年配の異性の愛を精一杯受けている限り、当映画の冒頭に出てくる言葉のように、


The World Is Yours

世界は俺のもの


と思っています。

しかし長ずるにつれ、異性や他人の目を意識するようになり、思春期になると髪の毛を染めたりワックスをつけたりと外面ばかり気にするようになり、見栄のためにバイトテロなどの突飛な行動を取ったりもします。

して、大人になると虚栄心が頭をもたげ、純粋な子供心を失っていきます。

その中にあって、童心を保ち続ける大人の男性は、異性だけでなく同性から見ても魅力的に映ります。

女性は、大人の男性の中に子供心を見いだすと、母性本能をくすぐられます。

本作はまさに、僅かな男だけが持つ真の稚気を、いびつな表現とはいえ、アル・パチーノがこれでもかと見事に演じています。

トニー・モンタナは物語の終盤で、敵に回したマフィアとの抗争で、以下の言葉を絶叫して機関銃をぶっぱなします。


Say hello to my little friend!

俺の坊やに挨拶しな!


逆上し、親友を殺してしまう行為には疑問符が付きますが、フロイトの説いたタナトス(死の欲動)へと突き進み、豪快に殺される死に様は、天晴れです。

ここからは、このマフィア映画が人気を得ている理由を進化生物学的な観点から解説していきます。

どんなに堅い人生を送っている保守的な人でも、環境の変化への適応力を高める危険な行動を、潜在意識では求めています。

なぜなら、我々の遺伝子には、過去地球上で何度か起きている、環境の大変動による大量絶滅の記憶が刻まれているからです。


いまの穏やかで安全な環境は、決して永遠には続かないことを、我々は遺伝子レベルで理解しています。

そしてその時が来たら、自分を変革させなければ生き延びられないことも遺伝子レベルで知っています。

生物の種が分化するような大きな進化は、みな外部環境が大きく変化したときに起きているからです。

そして言うまでもなく、変わるということは安定を放棄する危険な賭けであり、動物の脱皮や羽化の時など、捕食者から命を狙われる危険が高まるのも、同じように変化のときです。

つまり、トニー・モンタナの、死へとひた走る危険な行いを観たとき、表層意識では狂気と見なしても、潜在意識では何かを感じています。


この映画で演じるトニーモンタナの、己の可能性を試そうとする一人の男の純粋な冒険心、そこに内在する稚気、その結果生じる絶えず安定を否定する変化、タナトス(死の欲動)へと向かう一連の行動は、我々の意識や心に訴えかけるのです。


この映画が一定の支持を得ているのは、他を寄せ付けないアルパチーノの圧倒的な演技だけでなく、そこにもあります。

本作は、ブライアン・デ・パルマ監督やオリバー・ストーン脚本、そしてミシェル・ファイファー演じるお高く留まる女性と、脇を固める人物もアル・パチーノの演技を見事に引き立てています。

万人受けする映画ではなく、また現実社会でこのような人間はお断りで、当然これらの行為が許されるはずもありませんが、俺は今よりももっといけるはずだ、という危険を冒しながら頂点を目指そうとする人間の姿は、どこの社会や組織にも見られる現象と言えるでしょう。











参考文献 





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